金田一耕助の事件簿003
令和においていささかも色褪せない魅力
「獄門島」（横溝正史）角川文庫
｢三人の妹たちが殺される、
獄門島に行ってくれ｣。
戦友が臨終に残した言に従って
獄門島を訪れた金田一耕助。
島の総元締めというべき
戦友の家･鬼頭家には、
月代･雪枝･花子の
三人の妹たちがいた。
金田一の不安は的中し、
花子が…。
横溝正史の最高傑作、
いや日本探偵小説の
最高傑作というべき本作品。
これまで何度も映像化され、
横溝ファンならずとも知らない者のない
作品なのではないかと思います。
これまでミステリーものについては、
筋書きの詳細に触れずに
読みどころ、味わいどころを
指摘するにとどめてきました。
しかし本作品の場合、
それをしてしまうこと自体が
ネタバレに繋がるものであり、
これまで取り上げることを
ためらっていました。
金田一耕助が
乗り込んだにもかかわらず、
戦友･鬼頭千万太の恐れていたことが
現実化し、三人の妹たちは
次々と殺されていきます。
もしこれが
現代の現実世界であるならば、
一人目が殺害された時点で
警察の介入があり、
二人目三人目を手にかけることは
至難の業です。
それが成り立つのは、本作品が
終戦直後の混沌とした
時代であるということと、
警察署員が駐在一人しかいない
閉ざされた地域という
舞台設定だからなのでしょう。
そして殺人の動機も、
現代に引き寄せてしまうと
理解不能に陥ります。
これもやはり他と交わることのない
極めて閉鎖的な地域で、
人間関係が固定されていて、
しかも古くからの因習が
息づいている環境でなければ
成り立ちません。
屏風に掲げられた俳句の通りに
遺体が遺棄されていきます。これも
現代を舞台にしてしまえば単なる
猟奇趣味にしかならないのですが、
このおどろおどろしい背景では、
何やら納得できるものになっています。
さらに本作品における金田一の推理は
証拠に基づいた論理的なものでは、
残念ながらありません。
｢こうであれば矛盾なく
説明できる｣という推測、
もっと言えば想像に過ぎない部分が
あちこちに組み込まれているのです。
やはり現代の警察の捜査では
あり得ないことです。
そうです。
本作品は、昭和の時代の
｢獄門島｣という瀬戸内海の
孤島を舞台にして
初めて成り立つ作品なのです。
従って今後こうした作品が
ミステリーとして生み出される可能性は
ほぼあり得ないでしょう。
本作品は、昭和の時代だからこそ
誕生した名作であり、それでいながら
ミステリーとしての衝撃の大きさと
筋書きの完成度の高さは
平成を越え、令和の時代においても
いささかも
色褪せるものではありません。
来年には没後40年を迎える横溝正史。
再評価が進んでいくものと思われます。
〔追伸〕
ちなみに私の本棚には
｢獄門島｣が4冊あります。
冒頭の写真は一昨年に復刻された
杉本一文装丁表紙のもの
(本文は平成8年に
改版となっています)ですが、
そのほかに次の3点があります。
現在は漢字一文字の装丁ですが、
まったくもって味気なく思います。
やはり横溝正史の作品世界は
杉本一文装丁表紙によって、
一層味わい深いものになります。
（2020.1.8）
〔追記〕
再読した記事をアップしました。
（2023.1.27）
〔追記〕
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（2023.5.15）
【金田一耕助の事件簿】
【橫溝正史の本はいかがですか】
